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設備保全では、現場で紙の点検表に記入し、事務所に戻ってからExcelへ転記する運用が残っているケースがあります。記録と転記が分かれていると、作業が重複するだけでなく、記載漏れや入力間違いを確認する手間も生じます。
また、点検表や修繕記録をPDF・Excelで保存していても、保存先や記載方法が統一されていなければ、必要な履歴を探しにくく、分析に使える状態にならないことがあります。
本記事では、設備保全のペーパーレス化を、帳票の電子化だけで終わらせず、記録の標準化、検索・集計、センサーによる自動取得へ段階的に進める方法を解説します。第一実業が実際の相談に対して整理した提案内容を一般化し、導入前に確認したい点も紹介します。
設備保全に欠かせない巡回点検では、設備構成や通信環境の都合から、紙の点検表が適している現場もあります。一方、紙とExcelへの二重入力や履歴検索に時間がかかっている場合は、記録方法とデータの使い方をあわせて見直す余地があります。
紙ベースの点検作業で生じるミスや課題の代表的なものを3つ、挙げてみました。
設備や機械の点検時に現場で点検表に記入したあと、事務所に戻ってから改めてExcelに手入力するという、二度手間ともいえる作業が発生しているケースが多いと思います。日々のルーティンワークの効率化を考えるときに、二度手間ほどなんとかしたいと思うものはありません。
点検表への記載ミスが発生する可能性だけでなく、さらにはExcelに手入力する際にも誤入力をしてしまって気づかない、というケースもあります。人為的なミスはどのような業務でもゼロにすることは難しいですが、毎日繰り返し行う作業にはミスが発生しやすいのも事実です。
設備や機械にトラブルが起きたとき、過去の修理・部品交換・点検履歴は原因の切り分けに役立ちます。しかし、紙のファイルや担当者ごとのExcelに記録が分散していると、類似事例を探すまでに時間がかかります。
異常が発生した際、過去の対応履歴を書類や過去のExcelファイルから探すのに時間がかかり、事後保全のダウンタイムが延びる原因にもなりかねません。また巡回担当者によって書き方が違ったり、正確性を欠いていたりする可能性もあります。
記入方法が統一されていないと、トラブルや故障の履歴が検索できず、結局ベテラン社員の知見や技術に頼るしかありません。設備保全に限らずさまざまな業務で、こうした「ノウハウの属人化」が問題として取り上げられることが増えてきているというのが実情です。
もう一つの課題は、紙ベースの点検表や形式の異なるExcelでは、設備の変化を時系列で比較しにくい点です。入力項目や単位が統一されていなければ、集計できても、そのまま分析や予兆判断に使えるとは限りません。
結局分析ではなく、ベテラン社員などの経験値による予測を優先せざるを得ないという状況は、できれば避けたいところです。
「ペーパーレス化」と一言で言っても、実際には段階があります。紙をタブレットに置き換えただけで止まると、現場の負担はあまり変わりません。自社が今どの段階にいて、次にどこを目指すのかを整理しておくことが重要です。
| 段階 | 状態 | この段階でやること | 得られる効果 |
|---|---|---|---|
| 段階0 (現状) |
紙の点検表+Excelへの転記 | ─ | ─(二度手間・検索不可・分析不可) |
| 段階1 電子化 |
タブレット・スマホで直接入力 | 点検帳票のデジタル化、写真添付の運用開始 | 運用設計によって転記作業を減らし、入力間違いの確認や情報共有をしやすくする |
| 段階2 標準化 |
入力項目・記載ルールが統一されている | 入力形式の統一(選択式の活用)、点検項目の棚卸し、記録項目の定義 | 担当者による書き方の差を抑え、検索・集計に使いやすい状態へ整える |
| 段階3 自動取得 |
IoTセンサーがデータを自動収集 | 振動・温度・電流センサーの後付け、閾値設定 | 対象項目では手作業を減らし、機器構成に応じて連続監視を検討できる |
| 段階4 分析・活用 |
蓄積データから予兆を検知・判断に活用 | 傾向分析、故障履歴との突き合わせ、KPI管理 | 予兆保全の検討、突発停止リスクの低減、保全計画の見直しに活用 |
重要なのは、段階2の「標準化」を飛ばさないことです。電子化しても入力ルールがばらばらなままでは、データが検索・集計できず、段階3・4に進んでも活用できません。逆に、標準化まで到達していれば、その後の自動取得や分析への移行がスムーズになります。
以下は、長年にわたり紙・PDF・Excelで保全記録を蓄積してきた製造現場に対し、第一実業が提示した提案内容を、企業名や設備固有の情報を伏せて一般化したものです。導入後の成果事例ではなく、導入前の課題整理と提案設計の例として紹介します。

相談時には、修繕記録を紙に記入した後、PDF化してサーバーへ保管し、一部をExcelへ転記する運用が行われていました。しかし、トラブルが起きない限りファイルを開く機会が少なく、過去の傾向分析も担当者の経験に依存していました。
最初の提案は、紙・PDF・Excelの記録をAI-OCRなどで読み取り、点検記録、修理記録、部品交換記録といった種類ごとに整理することでした。すべてを一律に取り込むのではなく、今後使う項目と、保管だけでよい項目を選別し、熟練担当者の気づきや判断理由をタグとして残す考え方です。
AI-OCRの読み取り結果には誤りが含まれる可能性があるため、重要項目は原本との照合や承認フローを設けます。特に設備番号、日付、数値、部品名など、後の分析条件になる項目は確認方法を事前に決めておく必要があります。
次の段階では、紙へ記入してからPDF化する流れを一度に全面変更するのではなく、対象設備や帳票を限定し、タブレットから直接入力する試行が提案されました。現場が慣れている項目順や用語をできるだけ残し、入力負荷と記録品質を確認しながら対象を広げる進め方です。
点検・修繕履歴が一定の形式で蓄積されれば、設備から取得した稼働データと同じ時間軸で確認しやすくなります。ただし、データを集めただけで故障の予兆が自動的に分かるわけではありません。分析目的、正常時の基準、異常時の対応ルールを定め、段階的に検証します。
提案資料では、過去記録のデータ化、修繕記録のタブレット入力、点検記録の電子化について、それぞれ試行期間の目安が示されていました。これらは当該提案時の前提に基づく計画であり、一般的な導入期間や完了を保証するものではありません。
「電子化したのに、かえって手間が増えた」という失敗を避けるために、導入時に押さえておきたい設計ポイントを整理します。
すべてを自由記述にすると入力に時間がかかり、記録内容もばらつきます。異常の有無、部位、症状などはあらかじめ選択肢を用意して選ぶ形式にし、自由記述は補足コメントだけに絞るのが基本です。これにより入力時間が短縮され、後の集計もしやすくなります。
異音や微妙な変色などは、文章で書き分けるのが難しい情報です。その場で撮影して記録に添付できる仕組みがあれば、経験の浅い担当者でも状況を正確に伝えられます。
現場が慣れている点検順序や項目の並びを、システム都合で大きく変えると定着しません。まずは今の点検フローをそのままデジタルに移すことから始め、運用が定着してから項目の見直しを行う順序が有効です。
入力したデータが誰に見られ、どう使われるのかが分からないと、現場のモチベーションは続きません。「入力したデータが週次で集計され、部品交換の計画に使われる」といった具体的な使われ方を共有しておくことが定着の鍵になります。巡回点検全体の効率化については「巡回点検の効率化を図るには?」もあわせてご覧ください。
点検記録に担当者名、顔が写った写真、連絡先などが含まれる場合、内容や利用方法によっては個人情報としての管理が必要です。また、設備条件や故障履歴は企業の機密情報に当たることがあります。クラウドへ移行する前に、保存対象、閲覧権限、保存期間、持ち出し、委託先との役割分担を整理してください。個人情報の取り扱いは、個人情報保護委員会の法令・ガイドラインも確認し、自社の法務・情報セキュリティ部門と判断します。
スマホやタブレットから現場で直接入力し、その記録を後工程でも利用できるように設計すれば、事務所に戻ってからのExcel転記を減らせます。削減できる工数は、紙の併用有無、承認フロー、既存システムとの連携状況によって異なります。
またそのデータを設備保全の責任者やチームメンバーが共有できるようになるため、人為的なミスにも気づきやすくなります。
写真や動画を点検記録に添付できれば、文章だけでは伝えにくい変色、漏れ、振動の様子などを責任者へ共有しやすくなります。通信環境や通知設定によっては即時共有も可能ですが、緊急時の連絡手段を点検アプリだけに依存しない運用も必要です。
経験値が低いと判断が難しいこともありますので、ベテランや責任者にその場で指示を求めることができれば、チョコ停などを最小限にとどめることにもつながります。
過去の修繕履歴や部品交換履歴、不具合の発生状況、設備の図面などをすべて電子化できれば、過去のファイルやデータをわざわざ探しに行かなくても、現場で速やかに検索して必要な情報にたどり着けるようになります。
設備IDや部位、発生日などで検索できる状態に整えれば、事務所へ戻って紙のファイルを探す時間を短縮できる可能性があります。
点検記録を電子化しても、それが単独のアプリに閉じていると、活用の幅が限られます。記録を保全業務全体で活かすには、設備台帳やCMMS(設備保全管理システム)と紐づけることが重要です。
点検記録を「どの設備の記録か」という単位で管理できると、設備ごとの故障傾向や修繕費の推移が追えるようになります。設備台帳に持たせるべき管理項目(設備ID・設置場所・メーカー・仕様・保全履歴など)は「設備台帳管理システムとは?」で解説しています。
CMMSの機能や導入で解決できる課題は「設備保全管理システム(CMMS)とは?」をご覧ください。
設備保全の業務を電子化してペーパーレスを実現すれば、二重転記といった無駄な作業をなくして業務の効率化を図ることはできます。ただし、人間が数値を読み取ってスマートフォンやタブレットなどの端末に入力する手間は残ります。
単なる電子化で終わらせるのではなく、「真のペーパーレスDX」を実現するためには、どうすればいいのでしょうか?
紙をタブレットに置き換える「デジタイゼーション(電子化)」だけでは、人間が数値を読み取って入力する手間は残ります。ペーパーレスにすることはできますが、手入力であることに変わりはありません。大切なのは、データを自動収集して現場を真に楽にする「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。
振動、温度、圧力など、センサーで取得できる項目は自動収集へ切り替えることで、読み取り・入力作業を減らせます。一方、漏れや異臭、周辺状況など、人による確認が必要な項目もあります。すべてを自動化するのではなく、対象設備、取得目的、設置環境、通信方法を確認して適用範囲を決めます。古い設備への後付け方法は「古い設備をDX化するには?後付けIoTの進め方」で解説しています。
IoTセンサーやAIを用いて状態変化を継続的に確認できれば、保全判断の材料を増やせます。ただし、センサーやAIは故障防止を保証するものではありません。アラートの閾値設定を誤ると誤報や見逃しが生じる可能性があるため、点検との役割分担や対応手順まで設計します(→閾値設定とアラート疲れの防ぎ方)。
慢性的な人材不足に悩む中小規模の事業者にとって、いかに限られたリソースをコア業務に集中させるかが大きな課題ですが、点検やデータの手入力作業がなくなることで空いた時間を、コア業務に振り分けることができるようになります。
設備保全のペーパーレス化やDX化を導入したいと経営者や工場責任者が考えていても、現場のリテラシーが不足している場合や、ベテラン社員などの抵抗などがあってなかなかうまくいかない、という声をよく耳にします。
「新しいシステムを導入しても現場に定着しない」という問題は、過去にDXで失敗体験を持つ多くの経営層に共通するものです。リテラシーの壁を壊すために必要なのは、トップダウンの押し付けではなく、徹底した「現場ファースト」の思想です。定着せずにPoCで止まってしまう典型的な要因は「なぜ製造業のDXは失敗するのか?「PoC死」を避けて成果を出すための必須条件」で解説しています。
まずは手書きからExcelへの二重転記をなくすなど、今の業務フローを極力変えない部分的な置き換えで、現場業務に自然に溶け込む仕組みを構築していくことを目指すべきです。
その上で、スマートフォンを操作する感覚で直感的に入力できる操作性に優れたUI・UXを用意し、現場の入力負荷を徹底的に下げることが、DXを継続的な成果につなげる重要な要素です。
経済産業省が管轄する公的機関である「IPA」は、日本におけるIT人材の育成や情報セキュリティの強化を図る中核機関ですが、IPAのホワイトペーパー(概要)には、以下のような説明がなされています。
「中堅企業の実情を考慮すれば、外部のコンサルに委託したり、デジタルスキルを有する人材を必要な量だけ雇用して一気にDXを推進することは現実的ではない。まずは社内で将来像(ビジョン)を共有したうえで、事業を統括する役員や現場を熟知した従業員が現業と調整しつつ、徐々に自身のデジタルリテラシー向上やスキルアップを図り、DXを統括する人材、推進する人材となっていくことが必要と考えられる」
引用元:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「DX動向2024-中堅企業のDXの取組についての考察」(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/dxwp2024-mse.html)
現場の声を聞かずにトップダウンでDXへのシフトを強引に進めても、うまくいきません。現場の作業で何にどれくらいの労力を割いているか、何を自動化すれば現場が楽になるかを聞き取るところから始めるという姿勢が必要です。
紙の点検表からの移行は、現場の負担と記録品質を見直す一歩です。中長期的には、電子化した記録を設備台帳やCMMSへつなぎ、必要な測定項目にIoTセンサーによる自動取得を組み合わせる方法も選択肢になります。現場条件によって適した構成は異なるため、目的と運用体制から検討してください。