設備保全DXに関する相談をする

後付けセンサーで古い機械のIoT化=レトロフィットの実現方法

当メディアは第一実業株式会社をスポンサーとしてZenken株式会社が運営しています。

目次
記事監修:第一実業株式会社(設備保全DX領域)/最終確認日:2026年7月23日

本ページでは、既存システムがDXの足かせとなる「2025年の崖」や「2026年問題」に直面する現場に向け、古い機械を捨てずに「喋らせる」手法を解説します。設備の老朽化と熟練技術者の引退が進行する中、属人的な管理からの脱却が急務です。

PLCや配線図がない昭和の設備でも、低コストな後付けセンサーを活用すれば、業務の属人化解消や故障リスクの低減は十分に可能です。初期投資を抑えたスモールスタート型のIoT導入シナリオについて、実際によくある導入プロセスの例を交えて紹介します。

なお本ページでは、後付けIoT(レトロフィット)で「何が取得できるのか」「どんな制約があるのか」という技術面を中心に解説します。導入ステップや現場調整の実務的な進め方は「古い設備をDX化するには?後付けIoTの進め方」で詳しく扱っています。

古い機械こそIoT化が必要な理由(故障リスクの可視化)

熟練工の引退と老朽化のダブルパンチ

製造現場において、長年使い込まれた既存システムや設備がブラックボックス化しています。これがDXの足かせとなる「2025年の崖」として、業界全体を覆う深刻な課題となっています。この言葉は、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」において提起されました。

老朽化・複雑化したレガシーシステムを使い続けた場合、2025年以降に最大で年間12兆円規模の経済損失が発生しかねないと指摘されており、あわせてレガシーシステムを扱えるIT人材の引退・不足も深刻化しています。

※参照元【PDF】:経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/20180907_02.pdf

これに加えて、製造業にとって見過ごせないのが「物流の2026年問題」です。2024年に成立した改正物流効率化法により、2026年4月からは製造業を含む一定規模以上の荷主企業が「特定事業者」に指定され、荷待ち・荷役時間の短縮や積載効率向上に関する中長期計画の策定・定期報告、物流統括管理者の選任などが法的義務となります。

これまで現場任せ・属人的な管理で済ませてきた業務についても、経営として実態を数値で把握し、説明できる体制が求められるようになる点は、設備管理の分野にもそのまま当てはまる課題です。

こうした管理業務の増加に対応するためにも、まず着手すべきなのが「故障リスクの可視化」。特定のベテラン社員だけが、設備の不調を「音」や「振動」で察知できるという状況は、裏を返せば、その判断根拠を記録・数値化しておらず、組織として説明も引き継ぎもできない状態にあることを意味します。実際に40%以上の現場()が、こうした属人化を課題として認識しています。

※参照元:2025/12/15 フォーブスジャパン『製造業の2026年問題 8割超が懸念する調達コスト増と利益圧迫』
https://forbesjapan.com/articles/detail/86750/page2

後付けセンサーによって振動や電流の変化を常時データ化することは、ベテランの「勘」を誰もが確認できる数値へと置き換え、異常の予兆を組織全体で共有できる状態にする取り組みにほかなりません。その技術者が引退した瞬間に、工場全体の稼働停止リスクへと直結してしまう前に、判断基準そのものをデータとして残しておくことが重要です。技術伝承の観点からの進め方は「設備保全DXで進める技術伝承と属人化解消」で解説しています。

熟練工の引退による技術継承の断絶と、数十年にわたって稼働し続ける設備の老朽化。このダブルパンチに対し、限られた予算で運営する中小企業は、既存のレガシー設備とIoT技術を巧みに連携させる戦略が不可欠です。長年愛用している古い生産設備であっても、多額の予算を投じて丸ごと更新する必要はありません。現在の稼働状態を維持したままでデジタル化へと踏み出すことが、現実的かつ堅実な打開策となります。

昭和の設備を「レトロフィット」する3つの方法

通信機能を持たない古い機械に対して、大掛かりな改造を施すことなく新しいデジタル技術を後付けします。機械自らが稼働データを自動的に発信するように「喋らせる」技術がレトロフィットIoTです。高額な専用のシステムを構築しなくても、安価なデバイスと現場の工夫を組み合わせることで、既存設備を最大限に活かしながら製造現場をIoTへと発展させられます。

既存の設備保証を無効にするような複雑な改造を避け、安全かつ迅速にデータを取得するための具体的なアプローチとして、以下のような手法が大きな効果を発揮します。

CTセンサー(電流監視)

工場の心臓部とも言えるモーターやポンプなどの動力線に対して、CT(計器用変流器)センサーを取り付ける手法です。電流値の微細な変動を常時モニタリングします。これにより、モーターへの過負荷や、ポンプの空転、ベルトの緩みといった異常の兆候をデータとして検知します。

既存の配線ケーブルを切断したり、大掛かりな電気工事を行ったりする必要はありません。ケーブルの外側から挟み込むだけで後付けできるクランプ式の製品が多く流通しています。そのため、稼働中のラインを止めることなく、安全かつスムーズに導入を進められます。

後付け振動センサー

稼働中の機械の筐体やモーター部分に、振動センサーを取り付けます。設置にはマグネットや専用のネジ、あるいは強力な両面テープなどを使用します。普段とは異なる揺れや周期を継続的に監視する仕組みです。人間が触れて感じるよりもはるかに早く、異常を察知できます。

異常な振動はベアリングの摩耗や潤滑油(グリス)の枯渇、回転軸のズレといったメカニカルなトラブルの兆候です。これらを定量的なデータとして早期に捉えられます。これにより、定期的な部品交換を行う時間基準保全から、実際の状態に応じた適切なメンテナンスを行う状態基準保全へと移行します。結果として、無駄な部品コストの削減にも寄与できます。時間基準保全(TBM)と状態基準保全(CBM)の違いは「TBMとCBMの違い」をご覧ください。

アナログメーターのカメラ読み取り

デジタル出力端子を持たない旧式のアナログ計器盤に対するアプローチです。圧力計や温度計、流量計などに対しては、市販の小型カメラを設置してメーターの指針を定期的に撮影します。そして、その画像をAIの画像処理技術によってデジタル数値へと自動変換する方法が用いられます。

毎日決まった時間に広い工場内を歩き回り、クリップボードに手書きで数値を記録していた巡回点検を機械に置き換えることで、点検工数が大幅に削減できます。同時に、転記ミスや読み間違いといったヒューマンエラーの根本的な解消に直結します。

後付けで取得できるデータと接続方式の一覧

「古い設備でもIoT化できる」と言われても、実際に何が測れて何が測れないのかが分からないと検討が進みません。代表的なセンサーと、取得できるデータ・検知できる異常・設置方式を整理しました。

センサー種類 取得データ 検知できる異常の例 設置方式
CT(電流)センサー 電流値、負荷の変動 過負荷、空転、ベルトの緩み、モーターの劣化 動力線にクランプで挟み込む(配線切断不要)
振動センサー 振動の大きさ、周波数成分 ベアリング摩耗、軸芯のズレ、アンバランス、潤滑不足 マグネット・ネジ・接着で筐体に取り付け
温度センサー 表面温度、雰囲気温度 過熱、冷却不良、制御盤の熱暴走 接触式(貼付)または非接触式(放射温度計)
カメラ+AI読み取り アナログ計器の数値、ランプ状態 圧力・温度・流量の異常、表示灯の警報点灯 計器の正面に固定設置(設備側は無改造)
マイク・音響センサー 稼働音、異音の周波数 異音の発生、エア漏れ 設備近傍に設置(周囲騒音の影響に注意)
接点信号の取り出し 稼働/停止、アラーム出力 稼働状況、停止回数・停止時間の集計 既存の接点・表示灯から信号取得(要電気工事)

取得したデータをクラウドへ送る通信方式は、主に次の3つです。

  • 920MHz帯・LoRaWANなどの無線:長距離・障害物に強く、配線工事が不要。広い工場内の分散設置に向く
  • モバイル回線(LTE/閉域網SIM):社内LANを経由せずクラウドへ直接送信できるため、情報システム部門の承認を得やすい
  • 有線LAN:安定性は高いが配線工事のコストと時間がかかり、レイアウト変更に弱い

社内ネットワークに接続しない閉域網の仕組みと安全性は「工場IoTのセキュリティ対策~社内LANに接続しない「閉域網」の安全性~」で解説しています。

後付けIoTの制約条件と事前に確認すべきこと

レトロフィットは万能ではありません。導入前に次の点を確認しておくと、設置後の「思っていたデータが取れない」という失敗を避けられます。

技術的な制約

  • 設置面の条件:振動センサーはマグネットが効く金属面が必要。塗装の厚い面や樹脂カバー越しでは正しく振動を拾えない場合があります
  • 環境条件:高温部・粉塵・油・水がかかる場所では、防塵防水等級(IP等級)や耐熱仕様を満たす製品を選ぶ必要があります
  • 電源の有無:常時監視が必要な場合は外部電源が望ましく、電池式は取得頻度によって寿命が大きく変わります
  • 電波環境:金属壁や配管が多い場所では電波が届きにくいことがあり、中継器の設置が必要になる場合があります
  • カメラ読み取りの前提:計器の照明条件(暗い・逆光・反射)によって読み取り精度が落ちるため、照明の追加が必要になることがあります

運用・契約面の確認事項

  • 設備保証・メーカー保証への影響:センサーの取り付けが保証条件に触れないか、事前にメーカーや保守業者に確認します
  • 安全上の制約:防爆エリアでは対応機器の使用が必須です。高電圧部への作業は資格が必要な場合があります
  • データの所有権と出力可否:取得したデータをCSV等で自社に取り出せるかを契約前に確認します。ここが閉じていると、将来的な他システム連携が困難になります

後付けが難しい・効果が出にくいケース

  • 故障が突発的で予兆が現れない設備(電子部品の断線など)
  • 停止しても生産に影響しない設備(費用に対して効果が小さい)
  • 近い将来更新・廃棄が決まっている設備
  • 検知後に対応する体制(部品在庫・要員・連絡ルール)が整っていない場合

設備が古くても導入できた後付けIoT

導入から何年・何十年と経ってしまって配線図が無い、PLCも付いてない、そんな古い設備でよく見られる典型的な導入プロセスの一例を紹介します。

プレス加工ラインにおける設置のビフォーアフター

あるプレス加工ラインでは、稼働から数十年が経つ搬送用モーターについて、これまで担当者が異音や振動を手や耳で確認するだけの状態が続いていました。設備を製造したメーカーはすでに廃業しており、回路図も残されていません。

導入前の状態:モーターの動力線には計測用の端子や表示器は一切なく、稼働状況を示すものは制御盤のランプのみです。異常の兆候は、担当者が定期的に手で触れて温度を確かめたり、耳を澄ませて音を聞いたりすることでしか把握できませんでした。

導入後の状態:動力線にクランプ式のCTセンサーを挟み込み、モーター筐体にはマグネット式の振動センサーを取り付けました。両センサーは小型の無線通信モジュールに接続され、電流値と振動データが数分おきにクラウドへ送信されます。制御盤への配線工事や設備の分解を伴わないため、作業はラインを止めずに数時間程度で完了できました。

ラインを止めずに導入するための手順

生産計画への影響を最小限にしながら後付けIoTを導入するには、事前準備の段取りが重要です。実務では次の順序で進めるとスムーズです。

  1. 対象設備と測定項目の決定:解決したい課題(突発停止・巡回負荷など)から、必要なセンサー種類を絞り込む
  2. 現地調査:設置面の材質・スペース、電源の有無、電波状況、環境条件(温度・粉塵・油)を確認する
  3. 非停止で設置できる範囲の切り分け:クランプ式CT・マグネット式振動センサー・カメラは基本的に無停止で設置可能。接点信号の取り出しなど電気工事を伴う作業のみ、計画停止時に実施する
  4. 通信・クラウド設定:設備側の作業とは切り離して事前に済ませておく(現場作業時間の短縮につながる)
  5. 設置と動作確認:センサー取り付け後、データがクラウドに届いているかを確認する
  6. 学習期間の確保:通常稼働データを一定期間蓄積し、その設備固有の正常範囲を把握する
  7. 閾値設定とアラート運用の開始:緩めの基準から始め、運用しながら調整する

手順6〜7の閾値設定は、後付けIoTを形骸化させないための最重要工程です。詳しくは「「センサー導入」で終わらせない設備保全のデータ活用と閾値設定方法」をご覧ください。

「昭和」の設備を持つ現場の担当者へ

機械からの自動データ収集はいきなり全社規模で目指すのではなく、まずは1台の設備に絞って後付けセンサーを試し、効果を確認してから他の設備へ展開していくのが現実的な進め方です。1台からの検証手順とPoCの判断基準は「失敗しない予兆保全の始め方 ポンプ1台からの「スモールスタート」が成功する理由」で解説しています。

並行して、現場担当者が日々行っている非定型なトラブル対応や、突発的な修理の記録をデジタル化し、それぞれの設備に紐づけてクラウド上に蓄積しておくことも有効です。

これだけでも、新たなトラブルが発生した際に過去の類似事例や対応履歴の即時検索が可能になり、原因究明にかかる対応時間の短縮や、業者への不要な依頼を防ぐ保全コストの削減といった効果を早期に実感できます。

さらに、工場全体のネットワークを刷新するような大規模なシステム構築は不要。単一の通信モジュールを用いた「スモールIoT」を活用すれば、配線図の有無に関わらず、遠隔監視体制を短期間で構築可能です。

設備を通常通り稼働させたままの状態で、必要な箇所にだけ後付けのセンサーやカメラを追加する。このビフォーアフターにより、既存設備しか持たない中小企業であっても無理なくDXの第一歩を踏み出せます。

小さな成功体験を積み重ねていくプロセスこそが、現場の抵抗感を和らげ、将来的により高度なデータ活用へとステップアップするための強固な基盤となります。

導入ステップや現場調整の実務的な進め方は、以下のページで詳しく解説しています。

まずは自社の設備に後付け対応できるか、診断から始めてみませんか?