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本ページでは、既存システムがDXの足かせとなる「2025年の崖」や「2026年問題」に直面する現場に向け、古い機械を捨てずに「喋らせる」手法を解説します。設備の老朽化と熟練技術者の引退が進行する中、属人的な管理からの脱却が急務です。
PLCや配線図がない昭和の設備でも、低コストな後付けセンサーを活用すれば、業務の属人化解消や故障リスクの低減は十分に可能です。初期投資を抑えたスモールスタート型のIoT導入シナリオについて、実際によくある導入プロセスの例を交えて紹介します。
製造現場において、長年使い込まれた既存システムや設備がブラックボックス化しています。これがDXの足かせとなる「2025年の崖」として、業界全体を覆う深刻な課題となっています。この言葉は、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」において提起されました。
老朽化・複雑化したレガシーシステムを使い続けた場合、2025年以降に最大で年間12兆円規模の経済損失が発生しかねないと指摘されており、あわせてレガシーシステムを扱えるIT人材の引退・不足も深刻化しています。
これに加えて、製造業にとって見過ごせないのが「物流の2026年問題」です。2024年に成立した改正物流効率化法により、2026年4月からは製造業を含む一定規模以上の荷主企業が「特定事業者」に指定され、荷待ち・荷役時間の短縮や積載効率向上に関する中長期計画の策定・定期報告、物流統括管理者の選任などが法的義務となります。
これまで現場任せ・属人的な管理で済ませてきた業務についても、経営として実態を数値で把握し、説明できる体制が求められるようになる点は、設備管理の分野にもそのまま当てはまる課題です。
こうした管理業務の増加に対応するためにも、まず着手すべきなのが「故障リスクの可視化」。特定のベテラン社員だけが、設備の不調を「音」や「振動」で察知できるという状況は、裏を返せば、その判断根拠を記録・数値化しておらず、組織として説明も引き継ぎもできない状態にあることを意味します。実際に40%以上の現場(※)が、こうした属人化を課題として認識しています。
後付けセンサーによって振動や電流の変化を常時データ化することは、ベテランの「勘」を誰もが確認できる数値へと置き換え、異常の予兆を組織全体で共有できる状態にする取り組みにほかなりません。その技術者が引退した瞬間に、工場全体の稼働停止リスクへと直結してしまう前に、判断基準そのものをデータとして残しておくことが重要です。
熟練工の引退による技術継承の断絶と、数十年にわたって稼働し続ける設備の老朽化。このダブルパンチに対し、限られた予算で運営する中小企業は、既存のレガシー設備とIoT技術を巧みに連携させる戦略が不可欠です。長年愛用している古い生産設備であっても、多額の予算を投じて丸ごと更新する必要はありません。現在の稼働状態を維持したままでデジタル化へと踏み出すことが、現実的かつ堅実な打開策となります。
通信機能を持たない古い機械に対して、大掛かりな改造を施すことなく新しいデジタル技術を後付けします。機械自らが稼働データを自動的に発信するように「喋らせる」技術がレトロフィットIoTです。高額な専用のシステムを構築しなくても、安価なデバイスと現場の工夫を組み合わせることで、既存設備を最大限に活かしながら製造現場をIoTへと発展させられます。
既存の設備保証を無効にするような複雑な改造を避け、安全かつ迅速にデータを取得するための具体的なアプローチとして、以下のような手法が大きな効果を発揮します。
工場の心臓部とも言えるモーターやポンプなどの動力線に対して、CT(計器用変流器)センサーを取り付ける手法です。電流値の微細な変動を常時モニタリングします。これにより、モーターへの過負荷や、ポンプの空転、ベルトの緩みといった異常の兆候をデータとして検知します。
既存の配線ケーブルを切断したり、大掛かりな電気工事を行ったりする必要はありません。ケーブルの外側から挟み込むだけで後付けできるクランプ式の製品が多く流通しています。そのため、稼働中のラインを止めることなく、安全かつスムーズに導入を進められます。
稼働中の機械の筐体やモーター部分に、振動センサーを取り付けます。設置にはマグネットや専用のネジ、あるいは強力な両面テープなどを使用します。普段とは異なる揺れや周期を継続的に監視する仕組みです。人間が触れて感じるよりもはるかに早く、異常を察知できます。
異常な振動はベアリングの摩耗や潤滑油(グリス)の枯渇、回転軸のズレといったメカニカルなトラブルの兆候です。これらを定量的なデータとして早期に捉えられます。これにより、定期的な部品交換を行う時間基準保全から、実際の状態に応じた適切なメンテナンスを行う状態基準保全へと移行します。結果として、無駄な部品コストの削減にも寄与できます。
デジタル出力端子を持たない旧式のアナログ計器盤に対するアプローチです。圧力計や温度計、流量計などに対しては、市販の小型カメラを設置してメーターの指針を定期的に撮影します。そして、その画像をAIの画像処理技術によってデジタル数値へと自動変換する方法が用いられます。
毎日決まった時間に広い工場内を歩き回り、クリップボードに手書きで数値を記録していた巡回点検を機械に置き換えることで、点検工数が大幅に削減できます。同時に、転記ミスや読み間違いといったヒューマンエラーの根本的な解消に直結します。
導入から何年・何十年と経ってしまって配線図が無い、PLCも付いてない、そんな古い設備でよく見られる典型的な導入プロセスの一例を紹介します。
あるプレス加工ラインでは、稼働から数十年が経つ搬送用モーターについて、これまで担当者が異音や振動を手や耳で確認するだけの状態が続いていました。設備を製造したメーカーはすでに廃業しており、回路図も残されていません。
導入前の状態:モーターの動力線には計測用の端子や表示器は一切なく、稼働状況を示すものは制御盤のランプのみです。異常の兆候は、担当者が定期的に手で触れて温度を確かめたり、耳を澄ませて音を聞いたりすることでしか把握できませんでした。
導入後の状態:動力線にクランプ式のCTセンサーを挟み込み、モーター筐体にはマグネット式の振動センサーを取り付けました。両センサーは小型の無線通信モジュールに接続され、電流値と振動データが数分おきにクラウドへ送信されます。制御盤への配線工事や設備の分解を伴わないため、作業はラインを止めずに数時間程度で完了できました。
機械からの自動データ収集はいきなり全社規模で目指すのではなく、まずは1台の設備に絞って後付けセンサーを試し、効果を確認してから他の設備へ展開していくのが現実的な進め方です。
並行して、現場担当者が日々行っている非定型なトラブル対応や、突発的な修理の記録をデジタル化し、それぞれの設備に紐づけてクラウド上に蓄積しておくことも有効です。
これだけでも、新たなトラブルが発生した際に過去の類似事例や対応履歴の即時検索が可能になり、原因究明にかかる対応時間の短縮や、業者への不要な依頼を防ぐ保全コストの削減といった効果を早期に実感できます。
さらに、工場全体のネットワークを刷新するような大規模なシステム構築は不要。単一の通信モジュールを用いた「スモールIoT」を活用すれば、配線図の有無に関わらず、遠隔監視体制を短期間で構築可能です。
設備を通常通り稼働させたままの状態で、必要な箇所にだけ後付けのセンサーやカメラを追加する。このビフォーアフターにより、既存設備しか持たない中小企業であっても無理なくDXの第一歩を踏み出せます。
小さな成功体験を積み重ねていくプロセスこそが、現場の抵抗感を和らげ、将来的により高度なデータ活用へとステップアップするための強固な基盤となります。
まずは自社の設備に後付け対応できるか、診断から始めてみませんか?