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失敗しない予兆保全の始め方 ポンプ1台からの「スモールスタート」が成功する理由

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製造業のIoT導入において、いきなり大規模なシステム構築を目指すのはリスクを伴います。コストの増大や現場の混乱を招き、実証実験の段階で頓挫してしまう「PoC死」のケースが後を絶たないといわれています。

高額な投資による失敗を回避し、着実に成果を上げるためには、ポンプ1台、数十万円の規模から始める「スモールスタート」が有効なアプローチとなります。ここでは、現場の負担を抑えながらIoT化を成功に導くためのステップについて探っていきたいと思います。

なぜ工場のIoT化は「スモールスタート」が成功するのか

いきなり全ライン導入が失敗する理由(コスト・現場の混乱)

製造現場のデジタル化において避けるべきは、最初から完璧な予知保全システムを目指してしまうことです。全ラインへの高機能センサー設置や専用回線の敷設といった大規模な導入は、膨大な初期投資が必要になるだけでなく、現場のオペレーションに急激かつ過度な変化を強いるという大きな問題を抱えています。

一度に大量のアラートが鳴り響く環境は、現場で働く従業員の精神的負担を増大させてしまいます。導入初期は設定の精度が定まらず、いわゆる「狼少年」のように誤報が多発しがちです。その結果、現場がアラートを無視するようになり、高額な費用を投じたシステムが誰も見ない「ただの箱」と化してしまう事例は枚挙にいとまがありません。

さらに特定のシステム開発会社に依存した大規模構成は、事後的な仕様変更が難しく、現場主導の改善サイクルを止めてしまうリスクも孕んでいるといえます。

大規模投資の前段階としての「費用対効果」検証プロセス

スモールスタートがもつ真価は、リスクを極小化しつつ、ROI(投資対効果)を実証できる点にあります。たとえば工場の稼働を左右する「重要なポンプ1台」に対象を絞り込むことで、導入コストを数十万円レベル、あるいは月額数万円の定額制サービスの範囲内に収めることができます。

こうした小規模な導入は、減価償却が必要な「設備投資」ではなく、現場レベルの決裁で処理可能な「修繕費」や「消耗品費」として扱えるケースが多く、稟議を通す心理的・手続き的なハードルを大きく下げることが可能です。

このプロセスは単なるお試し期間ではなく、本格導入に向けた必須の調整期間として位置づける必要があります。ポンプ1台の運用から得られた正常値のデータや、「巡回点検の工数を削減できた」といった具体的な効果は、経営陣を説得するための強力な客観的証拠(エビデンス)として機能します。

これまでの「聴診棒・点検」とIoTの現実的な役割分担

最新技術の導入といっても、これまでのアナログな点検業務を完全に否定するわけではありません。熟練工が聴診棒で聞き分ける微細な異音や、現場で感じる「なんとなく熱い」「焦げた匂いがする」といった五感による違和感は、高性能なセンサーでも容易には代替できない高度な保全情報です。

IoTが本来担うべき役割は、人間が物理的にカバーしきれない「時間の死角」を埋めることにあります。夜間や休日、あるいは巡回点検の合間の空白時間に、休むことなく監視を続けることがデジタル技術の得意分野です。

異常の予兆やデータの変化はIoTが検知し、最終的な詳細診断や処置は人が行う。このような役割分担を明確にすることで、現場の心理的な抵抗感を和らげることができます。新旧の技術が対立するのではなく、互いの強みを活かしてハイブリッドに共存する運用形態が、現実的かつ効果の高い保全スタイルになります。

【実践編】ポンプ1台を「部分監視」する際の手順

振動・温度・電流? 目的別の「取得データ」選定基準

ポンプの異常検知を目的として「振動」を監視する場合、どのような不具合を防ぎたいのかを明確にする必要があります。振動データには「速度」と「加速度」という指標があり、それぞれ検知できる異常の種類が異なります。

「速度」の監視は、部品のアンバランスや軸芯のズレなど、比較的低い周波数の異常検知に適しています。国際的な規格であるISO 10816でも採用されている指標であり、ポンプの出力に応じた基準値が定められているため、導入時の目安が得やすいという利点があります。

一方、「加速度」の監視は、ベアリングの初期損傷や、ポンプ特有のキャビテーション(空洞現象)を検知する際に必要です。これらは高い周波数成分として現れるため、速度データだけでは見落としてしまうおそれがあります。

また、空転によるダメージや過負荷による停止を回避したい場合は、モーターの「電流値」を監視する手法が適しています。解決したい課題が回転体のブレなのか、軸受の摩耗なのかによって選定すべきセンサーの仕様は異なってくるため、事前の見極めが肝要です。

必要な機器構成は「配線工事不要」のワイヤレス一択

限られた予算でスモールスタートを切る際、有線ケーブルを用いたネットワーク構築は費用対効果を悪化させる要因になります。LANケーブルなどの配線工事には多額の費用と時間がかかるうえに、将来的な工場のレイアウト変更にも柔軟に対応できなくなります。

昨今では、920MHz帯やLoRaWANと呼ばれる、長距離通信が可能で障害物を回り込む性質を持ったワイヤレス通信技術が主流となっています。これらを活用すれば、一般的なWi-Fiの電波が届きにくい入り組んだ製造現場でも、安定したデータ収集が可能です。

ただし、無線機器を導入する際には、データの取得頻度と電池寿命のバランスに注意を払う必要があります。大容量の解析データを常に送信し続ける設定にすると、内蔵電池は数週間で消耗してしまいます。反対に、1時間に1回のペースで大まかな傾向を監視する程度に留めれば、数年単位で電池を持たせることも可能です。

常時監視が欠かせない重要設備には外部電源を引き、傾向の把握で十分な設備には電池式のセンサーを用いるなど、現場の運用サイクルに合わせた現実的な設計が求められます。

設置は「後付け」で完了。半日で終わる現場のリアル

近年提供されているIoTセンサーの多くは、既存の設備への「後付け」を前提として設計されています。振動センサーであれば強力なマグネットなどで筐体に貼り付ける手法が採られ、電流センサーであれば既存の配線を挟み込むだけで設置が完了します。

大がかりな設置工事のために設備を長時間停止させる必要がなく、初期設定を含めても半日程度で作業が終わるため、工場の生産計画への影響を小さく抑えられます。

物理的な設置作業は容易な一方で、異常を知らせる基準となる「閾値(しきいち)」の設定には慎重な判断が必要です。同じメーカーのポンプであっても、設置環境や経年劣化の具合によって固有の振動特性を持っています。そのため、一般的な規格値をそのまま当てはめるのではなく、導入直後の一定期間を学習期間として設定し、普段の稼働データを蓄積していく手順が推奨されます。そこから統計的に正常な範囲を割り出し、逸脱した際のみアラートを鳴らす仕組みを構築することで、現場の負担となる誤報を大幅に減らすことができます。

スモールスタートから「全社展開」へ繋げるロードマップ

1台で効果検証(PoC)をする際のチェックポイント

ポンプ1台での導入を経て、実証実験の成否を判断する際の指標となるのは、「定量的な効果」と「運用の実現性」という2つの側面です。

定量面においては、異常を検知する精度や、実際の巡回点検にかかっていた工数がどれだけ削減されたかを記録していきます。くわえて、蓄積されたデータをCSV形式などで外部に出力できるかどうかも重要な確認事項です。将来的に他の生産管理システムなどと連携させる際、データが特定のツール内に囲い込まれていると、拡張の大きな妨げとなってしまいます。

運用面では、デジタルの操作に不慣れな作業員でも直感的に扱えるシステム画面になっているかを見極める必要があります。手元のスマートフォンで通知を確認できるか、異常を示すグラフが一目で理解できるかといった現場視点の評価が、全社へ展開する際の定着度合いを左右します。

さらに、複数台への拡張を見据えた電波状況の確認も欠かせません。1台の運用では問題がなくとも、監視対象が数十台に増えた際に通信エラーが生じないか、中継器1台で工場のどこまでをカバーできるのかを、この初期段階で検証しておくことが大切です。

情シスも納得する「セキュリティ」と「拡張性」の確認

製造現場の主導で成果を上げたプロジェクトが、いざ全社展開へと移行する段階になって、情報システム部門の反対に遭い頓挫してしまうケースは珍しくありません。その主な理由は、社内ネットワークへの接続に伴うセキュリティ上の懸念です。

工場を動かすための制御ネットワークと、一般的なITネットワークを安易に接続してしまうと、サイバー攻撃やウイルス感染による操業停止のリスクが高まってしまいます。

こうした障壁を越える解決策となるのが、特定のネットワーク内でのみ通信を行う「閉域網SIM」や、モバイル回線を利用する通信機器の活用です。

社内LANを経由することなく、携帯電話の通信網を使って直接クラウド環境へデータを送信する仕組みを構築すれば、既存の社内ネットワークの設定を変更する手間が省けます。これは情報システム部門にとっても、既存のセキュリティ体制に影響を与えない独立した通信として、承認を下しやすい構成だといえます。

単なるお試しで終わらせないためにも、スモールスタートの段階からセキュリティと拡張性を担保した構成を選定しておくことが、将来的な全社展開に向けた確実な足がかりとなります。